事例紹介1~相続手続放置の結末~

今回は、「とても時間がかかった相続」の事例をご紹介させていただきます。(依頼者より賛同いただいたうえで、事例を簡略化してご紹介します。)

2018年11月に初回のご相談を受け、2020年12月に納品となり、実に2年以上の歳月を要した結果、無事完了しました。

相続手続は、思いもよらない事態につながる恐れもございますので、お早めに手続をお願いできればと思います。

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【依頼者】
66歳の男性A(初回相談時点)

【相談内容】
平成3年に亡くなった父親X名義の不動産相続手続

【経緯】
もともと、Xは妻Zと婚姻関係にあり、XZの間には子ども2人(A・B)がいる4人家族であった。

妻Zが他界した後、Xは後妻Yと再婚する。(なお、後妻Yとの間に子どもはいなかった。)

平成3年3月、Xが死亡した。X相続人はY・A・Bの3人であった。

A・Bともに既に独立していたため、X死亡時、X宅にはYが一人で暮らしていた。

A・Bは、Xを亡くしたYに対して、「よかったら一緒に住みませんか?」と声をかけたものの、「やっぱりここ(X宅)がいいから、一人でいいよ。」と断ったようだ。

A・Bともに仕事が忙しく、また、何よりも、そもそも血の繋がりが無いYに対して、X相続に関する遺産分割協議の申し入れをすることができなかった(躊躇した)ようである。

平成10年1月、Yが死亡した。

そして、更に25年以上の月日が流れ、A・BがX宅の名義変更を希望し、戸籍等の必要書類を自力で収集し、相続登記手続を自力で試みた。

登記申請を行うべく、法務局で登記相談をしたところ、「そもそも相続人調査が完了しておらず、他にも相続人がいそうである。戸籍を更に調査し、相続人を確定する必要がある。」と門前払いを受ける。

その際、法務局窓口の登記官からは「これは相当大変な相続手続だろうから、ぜひ司法書士に相談してください。司法書士でも、こんなに複雑な案件に対応できる先生はあまりいないかも知れません…」と言われたようで、A・Bは相当のショックを受たようである。

そして、藁をもつかむ思いで、当事務所まで相談いただいたという流れである。

【ポイント1:遺産分割協議をしないことと相続人多数】
Xの相続人は至ってシンプルである。YとA・Bの3人のみ。

ただ、その後、X相続について遺産分割協議を行うことなくYが死亡していた為、X相続事件に対して「Y相続人」が加わったのである。

Yには子どもがおらず、Yの父母は既に死亡しているため、民法によれば「Yの兄弟姉妹」がY相続人となる。

全国各地から戸籍を次々に収集し辿っていくと、Yの兄弟姉妹は多数おり、しかも既に亡くなっている兄弟姉妹も複数いたのである。

そして、半年以上にわたる相続人調査の結果、相続人は17名ご存命であることが分かった。
【ポイント2:縁遠い者と相続放棄】
相続人が確定できたものの、非常に縁遠い方々に対して、従前の経緯等を説明しなければならない。

「それは自力では難しい。」とのことで、各相続人への説明等をも任されたが、やはりこれには苦労した。

困惑する相手方の立場に立ち、何度も丁寧に説明を重ね、相続人としての権利義務を説明し、選択肢を提示し、結果としては、依頼者を除く全相続人より相続放棄をしてもらうこととなった。

【ポイント3:認知症の相続人】
しかし、1人だけ、相続放棄ができない相続人がいらっしゃった。その方は認知症を患う高齢者Cであった。

幸い、Cのご親族と連絡がとれたため、今後の流れについて相談した。

Cには財産がほとんどなく、成年後見人を選任してまで本件相続放棄の手続を進めることは、事実上困難であるとのこと。

そこで、Cが亡くなったときに、C相続人より本件相続放棄を検討いただくこととなった。

【ポイント4:C相続と相続放棄】
Cが亡くなり、C相続人を更に調査し、C相続人が5名ご存命であることが分かった。

そこで、C相続人に対して、保留中であるX相続・Y相続について説明し、選択肢を提示し、結果としては、C相続人全員より相続放棄をしてもらうこととなった。

【ポイント5:相続放棄と相続人不存在】
Y相続人が相続放棄をする際には、本来であれば、Yについてのみ相続放棄を行えば足りるようにも思える。

しかし、Y相続人の全員が、Y相続のみについて相続放棄してしまうと、Y相続人について相続人不存在となってしまい、手続が煩雑化してしまう(民法951条以下)。

一方で、Y相続人の全員が、X相続のみについて相続放棄することも可能であり、そうすればA・B以外の相続人だけがうまくフェイドアウトできるが、そもそもXの存在すら知らない方々に対して、そのような手続をお願いできそうもない。

そこで、Y相続人に対して、相続放棄のご案内を差し上げる際に、Y相続のみならず、X相続についても相続放棄していただけないかとご相談し、結果として、ご協力いただくことができた。

そして、無事、Y相続人全員から、X相続とY相続について、相続放棄していただくことができたのである。

【相続登記の完了】
着手から2年以上経過したが、ようやく、A・Bの依頼内容通りの相続登記が完了したのである。